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こんな僕は何処へいけばいい?

「あああああああああ!」
マシンガンの音にかき消されて僅かにしか聞こえない叫び声は確かにその情景を楽しんでいる声だった。彼女は笑っている。マシンガンの弾はまだ尽きそうにない。
「ばっかじゃないの!?あんた等!全員!かかって来ないと死ぬって云ってるでしょぉ!?」
その声も辛うじて傍にいる俺には聞き取ることが出来た程度だ。他の人になど到底無理だっただろう。もっともその前に、他の人がまだ生きているかどうかは定かではないが。

部屋の何処を見回しても穴だらけだった。ほとんどが彼女がマシンガンで空けたものだ。まだ軽快な音は彼女の叫び声とともに響き渡っている。先ほどまで生きていた筈の人たちはベッドの下に一人、机の影に一人、箪笥の影に一人ずつかくれたはずだが…
(もう、死んだだろうな)
俺は思った。さすがにこの凄惨な部屋の中で生き残ることはあるまい。

今日の彼女はいつもより激しかった。いつもならこんなに弾を尽きることなく撃ち続けること等出来ない。
(体力がついて、しかも精神力も増したか)
俺は冷静に分析する。彼女の持っているマシンガンは特別なものだ。彼女の精神力の強さによって弾が補填されるのだ。もちろん彼女にしか使えない。
「つまらなかったわ、今度はもう少し人数を増やしてもいいわね」
彼女は冷たく言い放った。その姿は凛凛しかった。
「了解いたしました」
俺はいつものように云う。最初は一対一で戦って、負けることすらあったが、今では五人相手でもこの有様だ。部屋の中央には逃げる間も無く穴だらけにされた二人の身体が横たわっている。

彼女はいったい何処へ向かうのだろう。特別なこの力の性でこの研究所に連れてこられている。俺はここの所員だ。今は彼女の世話係のようなことをやっているが。
(きっと戦争に使われるのだろう)
何人の人が死ぬのだろう。彼女の弾で。
彼女の精神は最早崩壊しきっていた。人を殺すことで自我を保っているようだった。それは既に彼女にとって呼吸のようなものになっていることもわかっていた。彼女は元々強い人間ではないのだ。変えられてしまった。人を殺すことで。

「明日は何人殺すのだろう」
ふと彼女がつぶやいた。俺は死体を片付けながら、何も云わなかった。

何も云えなかった。

  by white_cat_hina | 2007-05-12 18:38 | 掌編小説

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